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二項対立ではない

中間管理職に関するコンテンツに関する続き。
なぜいまさら私がそんなことに興味を抱くのか(興味を抱くのは勝手だけれど,とくに出版業界や書店業界に強く関係するわけでもあるまい)と感ずる方も多かろうと思います。
実は,とても重要な関係があると,私個人は思っているということを,ちょっと説明しておきたいと思います。

INC総会でも話題に上っていましたが,現状,書店では著しい人材不足の進行が止まらず,職人芸的な能力を持った書店員が限界を超えて減り続けています。その一方では短期アルバイトさんなどに対するマニュアル的教育が徹底しているわけでもなく,結果として,書店の店頭は,まあ,簡単に言ってしまえば「荒廃している」と。
その現状をふまえると,書店に対する営業のアプローチも,ある種コンサルティング的な要素を大きく含む提案営業になっていく方が良いかもしれない。
ここまでの現状認識は,間違ってはいないと思います。

書店店頭の現状や今後の行く末を
職人芸 ←→ マニュアル化
という,二者選択あるいは二項対立と捉えている方も多いのではないかと思います。間違い,とまでは言いませんが,それを両立させることは可能である,と私は思っています。
良心的なリーダーが,適切なマネジメントをすれば,可能です。
なぜ可能であることにある程度自信を持っているかというと,たとえば K社 A氏や N社 H氏と出会った頃私が預かっていた店が,二人の社員以外はほぼ全員が20歳以下の,全く未経験のアルバイトだけがスタッフでしたが,ある程度まではそれが実践出来てという,実際の経験があるからです。
そこは非常に小さな店舗だったからこそ可能だったという特殊事情があるかもしれません。しかし,その後(やむを得ない成り行きで)100坪の店舗を社員二人と限界ギリギリの人数のアルバイトだけで運営せざるを得なくなった時にも,ある程度は実践出来ていたと思います。もちろん,理想とする質には遠く及びませんでしたが。

仕事を効率化する,あるいはマニュアル化する必要がある,ということに,私は全然反対ではありません。
おおいに賛成です。
実際たとえば,私は「その仕事はなぜやっているの?その結果が,いつ,何に役立つの?」としばしばスタッフに問いかけを繰り返すことで,出来るだけ仕事をさせないようにしていました。何日になったら何をする,何曜日に何をするという風に仕事をルーティン化して,一日単位の,見かけ上振幅が大きい書店店頭の仕事に振り回されないようにすることも繰り返し推奨していました。
仕入れの目安を判断するための初心者向けのマニュアルも書きました。

その一方では,創造的な仕事をすることをおおいに推奨しました。推奨しましたというより,強制しました。
スタッフには,結果を出すなら可能な限り自由に仕事をさせました。この「可能な限り」というのは表面上の言葉ではなく,限りなく100%自由に近く,という意味です。結果を出すという誰にでも分かりやすい単純明快な目標を定め,その目標のためなら何をしても良いというこれまた分かりやすい指示が,全ての基礎にある,ということを徹底しようとしたわけです。
スタッフにとってはとてもキツかったと思います。自由だけれども責任は持て,ということになると,結局自分で必死で創造的に仕事をするしかなくなるからです。

無駄な仕事をやめさせて重要な仕事に集中させる。
可能な限りの自由とそれに見合った責任を与えることで,工夫をせざるを得ない状況に身を置かせる。
基本は,たったこれだけです。
それだけでうまく行くはずがない,と多くの方が思うでしょう。
それに近いことは自分だってやろうと何度も試みたけれども,うまくいったためしがない,という方もおられるでしょう。
そうです。この基本を実際に役立つように動かしていくためには,管理職としての自分というものを徹底的に見直さなくてはなりません。
あまりに長くなるので,ここではこれ以上詳しくは書きませんが,以下のようなことをよく考える必要があります。

・管理職というのは部下に奉仕するために存在している。
・タイガー・ウッズにもコーチが存在しているが,コーチはウッズではない。
・楽しくない仕事は誰もしない。
・部下はあなたではない。
・コミュニケーションは愛が無ければ成立しない。
・・・等々。

効率化と創造的な仕事を両立させる最大の要はよい管理職の存在である,というのが私の考えです。
良い管理職を育てることに全力を注げば,今でも書店は救われます。
いやホント,誰か呼んでくれるなら今すぐ講演したいくらいです (^^;






©akio ishizuka